訪問看護でチェックされる健康項目には何が含まれるのか?
以下は、訪問看護で一般的に行われる「健康チェック(観察・アセスメント)」の全体像と、その背景にある根拠(法令・ガイドライン・標準的評価法)です。
ご本人の病状・医師の訪問看護指示書・生活環境によって重点は変わりますが、訪問看護は「全身の変化を早期に捉え、悪化を予防し、必要時は速やかに医師へ連絡・受診につなぐ」ことを目的に、系統立てた観察を行います。
訪問看護での主な健康チェック項目
全身状態・バイタルサイン
– 体温・脈拍・呼吸数・血圧・SpO2(パルスオキシメータ)
– 意識レベル(JCSやGCSを参考)、見当識、表情や活気
– 疼痛の有無と強さ(NRSやVASなどの疼痛スケール)
– 体重・体重変動、BMI、浮腫の有無(圧痕性の程度)、皮膚の色調・末梢冷感・毛細血管再充満
– 脱水の所見(口渇、尿量・尿色、皮膚ツルゴール)
根拠
– 厚生労働省が規定する「療養上の世話及び必要な診療の補助」に含まれる基本的観察(体温・脈拍・血圧等の測定)は訪問看護で標準(保助看法、介護保険・医療保険の算定通知等)。
– 日本高血圧学会は家庭血圧の活用を推奨(高血圧治療ガイドライン)。
心不全では毎日の体重・浮腫観察が悪化予防に有用とされる(日本循環器学会・日本心不全学会ガイドライン)。
呼吸器系
– 呼吸パターン(速い/浅い/努力呼吸、起坐呼吸、呼吸筋の使用)
– 咳嗽・痰(量・色・粘稠度・臭気)、喀痰の排出状況、吸引の要否
– 聴診によるラ音・喘鳴の聴取(看護師の診療の補助の範囲で実施)
– 呼吸困難感の主観評価(mMRC、Borgスケール)
– 酸素療法の使用状況(流量・機器作動・鼻カニュラ/マスクの適合)、在宅人工呼吸器のアラーム・回路リーク・呼気終末CO2の確認(機種に応じて)
根拠
– 日本呼吸器学会 在宅酸素療法ガイドラインはSpO2や呼吸困難度、喀痰管理を含む継続評価の重要性を示す。
COPD等の慢性呼吸器疾患でも悪化兆候の早期把握が推奨。
循環器系
– 脈の性状・整不整、起立時の血圧変動(起立性低血圧の確認)
– 胸痛・圧迫感・動悸・息切れ・夜間発作性呼吸困難の有無と発現状況
– 浮腫の分布、頸静脈怒張の観察、皮膚チアノーゼ
根拠
– 心不全診療ガイドラインは症状・体液貯留の観察、体重/血圧/脈のモニタリングを推奨。
神経・認知・精神
– 意識レベル、麻痺・しびれ・構音障害・ふらつき・痙攣の有無
– 認知機能の簡便評価(HDS-R、MMSE-Jなど)、急性の変動があればせん妄スクリーニング(CAMなど)
– 気分・不安・睡眠の質(高齢者ではGDS-15などの評価票の活用も)
根拠
– 認知症疾患医療・ケアのガイドライン、せん妄対策の推奨に基づく日常観察。
急変の早期認識が転帰を左右。
運動器・ADL・転倒リスク
– 関節可動域、筋力、歩行・移乗能力、福祉用具の適合
– 転倒歴・ふらつき、立ち上がりや方向転換、TUGなど簡易機能テストの活用
– 住環境の危険要因(段差、照明、電源コード、滑りやすさ)
根拠
– 高齢者の転倒予防は各学会・行政の推奨テーマ。
機能評価に基づく環境調整と運動介入が再転倒予防に有効。
栄養・口腔・嚥下
– 食欲・摂取量・食形態、MNA-SF等での栄養リスクスクリーニング
– 水分摂取量、脱水リスク、利尿薬使用時の調整
– 口腔内の清潔、義歯の適合、舌苔、口腔乾燥、OHAT等
– 嚥下機能の簡易評価(改訂水飲みテストMWST、反復唾液嚥下テストRSST、フードテストなど)、誤嚥徴候(湿性嗄声、むせ、微熱)
根拠
– 日本摂食嚥下リハビリテーション学会の評価・介入指針。
栄養リスクスクリーニングはサルコペニア・誤嚥性肺炎の予防に資する。
消化器・排泄・皮膚・創傷
– 排便リズム・便性状(便秘・下痢・失禁)、浣腸や下剤の使用状況
– 排尿回数・夜間頻尿・失禁、尿路感染徴候(発熱・排尿時痛・混濁)、留置カテーテルの固定・閉鎖式管理・尿量
– 皮膚状態(乾燥・発赤・びらん・皮疹)、圧迫部位の観察
– 褥瘡リスク評価(Bradenスケール、OHスケール等)と褥瘡の局所評価(ステージ、壊死組織、ポケット、滲出、感染兆候)
– ストーマ(消化管・尿路)の皮膚保護と装具の適合、漏れ・皮膚障害
根拠
– 日本褥瘡学会 褥瘡予防・管理ガイドラインは系統的リスク評価とスキンケア・体位変換の実施を推奨。
留置カテーテルの閉鎖式管理や感染徴候の観察は医療安全上の標準。
代謝・内分泌(糖尿病など)
– 血糖自己測定(SMBG)、低血糖症状(冷汗・振戦・動悸・意識低下)と対処
– インスリン注射・GLP-1製剤の手技、ローテーション、注射部位のしこり
– 糖尿病足病変の観察(皮膚乾燥・亀裂・発赤・胼胝、末梢神経障害徴候、足爪のケア)
根拠
– 日本糖尿病学会の療養指導・血糖管理指針、糖尿病足病変の予防・管理の推奨。
SMBGと低血糖予防は在宅療養の要。
服薬管理・副作用・ポリファーマシー
– 服薬状況(飲み忘れ・重複)、ピルボックス・一包化の活用、残薬調整
– 副作用徴候(出血傾向、眠気、ふらつき、便秘、食欲低下など)と相互作用リスク
– 服薬のタイミング・食事との関係、腎機能・肝機能に応じた注意(採血結果が共有されていれば照合)
根拠
– 厚労省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編ほか)」はポリファーマシー是正と副作用早期発見のためのモニタリングを推奨。
医療機器・チューブ類の安全管理
– 点滴・皮下輸液・持続皮下注(疼痛緩和等)の滴下速度・残量・穿刺部観察
– 中心静脈ポート/カテーテル、PEG・胃瘻/腸瘻、経鼻胃管、気管カニューレ、尿道カテーテル、膀胱ろう、ストーマ類の固定・清潔・閉塞/リーク
– 在宅人工呼吸器・吸引器・ネブライザ・HOT機器・持続陽圧呼吸(CPAP/BiPAP)などの作動・アラーム・衛生管理
– 腹膜透析(CAPD)の出口部観察、透析排液の濁り、体重・除水バランス
根拠
– 各学会(呼吸器、透析、消化器・栄養、IV療法等)の在宅療法ガイドラインは機器安全管理と感染予防、定期的観察点を明示。
緩和ケア・症状マネジメント
– ESAS等による症状スコア(痛み・呼吸困難・倦怠感・悪心・便秘・不眠・不安・抑うつ)
– オピオイドの有効性・副作用(便秘・眠気・悪心)とレスキュー使用、せん妄の徴候
– 目標設定・アドバンス・ケア・プランニング(ACP)に基づく意思確認
根拠
– 日本緩和医療学会ガイドライン、WHO疼痛ラダー。
症状の定量評価と副作用予防は標準的実践。
生活環境・心理社会面・家族支援
– 衛生環境、室温・湿度、酸素使用時の火気管理、感染対策
– 介護負担、セルフケア能力、理解度、虐待兆候の有無
– サービス調整(通所/訪問系サービス、福祉用具、栄養・リハ・歯科・栄養補助食品の活用)
根拠
– 指定訪問看護の運営基準は多職種連携・居宅介護支援事業所(ケアマネ)との連絡調整、計画書・報告書の作成を求める。
生活面の評価は再入院予防と質の高い在宅生活に不可欠。
チェックの進め方と頻度(実務の流れ)
– 初回訪問時の包括的アセスメント 既往歴、現病歴、服薬、生活歴、住環境、家族状況を含む全身評価を実施。
医師の訪問看護指示書の目的と一致させて訪問看護計画書を作成。
– 毎回の定型観察 バイタル、症状、服薬・摂食・排泄・睡眠・活動の変化、機器の安全確認をルーチン化。
疾患ごとにフォーカス(例 心不全は体重・浮腫・息切れ、COPDはSpO2・咳痰・呼吸困難度、糖尿病はSMBG・低血糖)。
– 定期的再評価 月単位でADL/栄養/褥瘡リスク/転倒リスク等を見直し、計画書を更新。
必要時は医師へ相談し指示書の変更を依頼。
– 記録と共有 訪問看護記録書、主治医・ケアマネへの情報提供書、家族・本人用のバイタル・排泄・体重・血糖手帳を用いて見える化。
– 緊急時対応基準 あらかじめ「いつ誰に連絡し、どこへ搬送するか」を決め、赤旗所見が出たら即連絡。
早期受診・連絡が必要な「赤旗」例
– 新規の片麻痺・構音障害・顔面麻痺、激しい頭痛、けいれん、意識障害
– 安静でも増悪する胸痛・圧迫感、SpO2が持続して90~92%未満、呼吸数の著増、起坐呼吸
– 収縮期血圧が持続的に180以上/90以下、あるいは普段より大幅に乖離、著明な徐脈/頻脈、不整脈の新規出現
– 急速な体重増加(例 2–3日で2kg以上)、急な浮腫増悪
– 高熱、悪寒戦慄、局所の発赤・腫脹・疼痛・排膿(カテーテル刺入部・創部・ストーマ周囲など)
– 反復する低血糖症状、血糖が危機的高値で意識障害や嘔吐を伴う
– 激しい腹痛、タール便・吐血、腹膜透析排液の混濁
– カテーテル閉塞・リーク、人工呼吸器の重大アラーム解除不能
根拠(法令・ガイドライン・標準評価法の例)
– 法令・制度
– 保健師助産師看護師法 看護師が医師の指示の下「診療の補助」を行う根拠。
– 介護保険法・健康保険法 訪問看護が介護・医療保険の給付として位置づけられ、指定基準や記録・計画書作成、連携が義務づけられている(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準、訪問看護療養費の算定に係る留意事項通知 等)。
e-Gov法令検索で参照可能(https://elaws.e-gov.go.jp/)。
– 総合的看護実践・アセスメント
– 日本看護協会・日本訪問看護財団の訪問看護実践ガイド・標準(訪問看護のアセスメント視点、記録様式、連携方法の標準化)。
– 疾患別・領域別ガイドライン(代表例)
– 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン 家庭血圧測定と血圧管理、生活指導。
– 日本循環器学会/日本心不全学会 心不全診療ガイドライン 体重・浮腫・息切れなどの在宅モニタリング。
– 日本呼吸器学会 在宅酸素療法ガイドライン、COPD診療ガイドライン SpO2、呼吸困難度、喀痰管理、機器安全。
– 日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン・療養指導ガイド SMBG、低血糖対策、足病変予防。
– 日本褥瘡学会 褥瘡予防・管理ガイドライン リスク評価(Braden/OH)、体位変換、スキンケア、創傷評価。
– 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下評価(MWST、RSST等)、誤嚥予防、食形態調整。
– 日本緩和医療学会 ガイドライン ESASなどの症状評価、オピオイドの適正使用、副作用対策、ACP。
– 日本透析医学会(腹膜透析の在宅管理)、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会(在宅人工呼吸管理)等の各種在宅療法指針。
– 標準的評価ツール(看護で汎用)
– バイタルサイン、SpO2、体重の連日記録
– 疼痛スケール(NRS/VAS)、呼吸困難尺度(mMRC/Borg)
– 認知機能(HDS-R、MMSE-J)、せん妄(CAM)
– 転倒リスク・機能評価(TUG等)、ADL(Barthel Index等)
– 栄養スクリーニング(MNA-SF)、口腔(OHAT)
– 褥瘡リスク(Braden、OHスケール)と創傷評価
実務上のポイント
– 医師の訪問看護指示書で明示された「目的と禁忌」に沿って重点観察項目を決める(例 在宅酸素=呼吸、心不全=体重と浮腫、糖尿病=血糖と低血糖兆候)。
– 変化を時系列で記録し、トレンドで読む(単発値より推移が重要)。
– 本人・家族に自己観察(体重、血圧、血糖、便通、疼痛、SpO2など)をわかりやすく教育し、悪化サインの共有と連絡基準を明確化。
– 多職種(主治医、薬剤師、歯科、栄養、リハ、ケアマネ)と定期に情報共有する。
まとめ
訪問看護の健康チェックは、バイタルや症状だけでなく、呼吸・循環・神経・栄養・嚥下・排泄・皮膚・創傷・内分泌・服薬・医療機器・緩和ケア・生活環境・家族支援まで広くカバーします。
これは法令が定める「療養上の世話・診療の補助」に基づく看護の役割であり、各疾患領域の日本のガイドラインや標準評価法に裏づけられています。
個々の療養者の状態に応じて重点項目を設定し、トレンドを捉え、赤旗の早期発見と迅速な連携につなげることが、再入院予防と生活の質の維持に直結します。
必要であれば、具体的なご病状(例 心不全+在宅酸素+糖尿病など)に合わせた「今日から使える観察チェックリスト」も作成しますのでお知らせください。
バイタルサインの測定はどこまで詳しく、どのように評価されるのか?
ご質問の「訪問看護でのバイタルサイン測定はどこまで詳しく、どのように評価されるのか」について、現場実務とガイドラインに基づいて詳しく説明します。
根拠(参考となる指針・学会ガイドライン等)も最後にまとめます。
1) 訪問看護で行う主なバイタルサインと観察項目
訪問看護では、基本のバイタルサインに加え、在宅生活で起こりやすい変化や疾患特性を踏まえた周辺評価まで含めて総合的にチェックします。
頻度や範囲は、主治医の訪問看護指示書、看護計画、既往歴・危険度により調整します。
意識レベル
方法: JCS(Japan Coma Scale)またはGCS(Glasgow Coma Scale)で定量化。
呼名反応、見当識(人・場所・時間)、言動の変化、せん妄徴候の有無を確認。
ねらい: 急変(脳卒中、低血糖、敗血症、薬物有害反応など)の早期発見。
参考閾値: qSOFA(後述)で「意識変容」が危険サイン。
呼吸(回数と質)
方法: 安静時に60秒カウント(最低でも30秒×2)。
呼吸数、リズム(整/不整)、努力呼吸(副呼吸筋使用、鼻翼呼吸)、体位での変化、咳嗽・痰の性状、喀痰量、呼吸音(聴診可能な環境なら笛様音/捻髪音など)を観察。
目安: 成人の安静呼吸数12–20/分。
20以上は要注意、≥22/分は敗血症のスクリーニング項目。
Cheyne-StokesやKussmaul様呼吸は重症サイン。
酸素療法中か、HOT(在宅酸素)の流量・装着時間・コンプライアンスも確認。
経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)
方法: 指先で測定。
末梢冷感やマニキュア、体動で誤差が出るため、温罨法や再測で補正。
安定値を数十秒確認。
目安: 一般成人は94–98%を目標。
COPDなど慢性高二酸化炭素血症の恐れがある場合は、過度な酸素投与を避け、88–92%程度の目標が推奨されることが多い(医師指示に従う)。
変動の評価: 安静・体位・運動・会話での低下、夜間の低下は重要。
脈拍(心拍数・整脈/不整脈)
方法: 橈骨動脈で15–60秒、必要に応じ心尖拍動で再確認。
不規則(絶対不整)は心房細動を示唆。
頻脈/徐脈、脱水や発熱、疼痛、薬剤(β遮断薬、ジギタリス等)の影響を考慮。
目安: 成人60–100/分。
新出の不整脈、頻脈(>100)、徐脈(<50)で症候性なら報告・対応。
血圧(座位・臥位・立位)
方法: 適切カフサイズで上腕、座位か臥位で1–2分安静後に測定。
初回は左右差確認。
家庭血圧計の校正・使用法も評価。
起立性低血圧の疑いでは臥/座位→立位1分・3分で反応を測定。
家庭血圧の閾値(参考): 家庭平均135/85mmHg以上で高血圧域。
低血圧や降圧薬過量、脱水に注意。
起立性低血圧: 立位で収縮期20mmHg以上または拡張期10mmHg以上の低下(3分以内)で診断的。
体温
方法: 電子体温計で腋窩・口腔・鼓膜など施設方針に準じ統一。
測定条件(食後・入浴後・運動後)を考慮。
目安: 発熱は一般に37.5℃以上だが高齢者は平熱が低く「平時比の上昇」が重要。
悪寒、戦慄、発汗、局所症状も併せて評価。
疼痛(Pain: バイタルの第5徴候)
方法: NRS(0–10)、VAS、表情スケール(PAINAD等:認知症の方)で定量化。
OPQRST(発症・誘因、性状、部位、放散、強度、時間変化、関連症状)で質的評価。
ねらい: 鎮痛の適正化、感染や虚血など重篤原因の早期発見。
体重・浮腫・水分出納
方法: 同条件(同時刻・同服装)で継時測定。
下腿の圧痕性浮腫(1+〜4+)、皮膚ツルゴール、口渇、尿量・尿色、便の性状、飲水量・食事摂取量を記録。
意義: 心不全や腎不全の増悪、脱水の早期発見。
心不全では2–3日で2kg以上の増加は注意サイン。
皮膚・末梢循環
方法: 皮膚温、湿潤、チアノーゼ、黄疸、毛細血管再充満時間(CRT)、圧迫疼痛、発赤・びらん・褥瘡の有無。
褥瘡リスクはBradenスケール等で評価。
意義: 循環不全・感染・栄養状態の把握。
血糖(医師指示下)
方法: SMBG(自己血糖測定)の技術確認や代行測定。
低血糖兆候(発汗、ふるえ、意識変容)の聴取。
目安: 低血糖は<70mg/dL(レベル1)、<54mg/dLは重症域(レベル2)。
食前80–130、食後<180mg/dLが一般的目標だが個別設定。
神経学的スクリーニング
方法: 片麻痺、顔面麻痺、構音障害、しびれ、視野異常、FAST(Face-Arm-Speech-Time)で脳卒中疑いを即時評価。
片側の力の入りにくさ、ふらつき、振戦の変化も確認。
その他(疾患・処置に応じて)
心電図モニタ(簡易デバイスがある場合)、呼気一酸化炭素(禁煙支援)、INR(ワルファリン管理:採血委託)、人工呼吸器/吸引/人工肛門/尿道カテーテル等の関連観察や機器設定の安全確認。
2) どこまで詳しく測るのか(深さと広さ)の考え方
– ベースラインの把握とトレンド重視
– 同一条件・同一方法での継時評価が最重要。
高齢者や慢性疾患では「絶対値」より「いつもと違う」が危険サイン。
– 在宅では安静がとりにくいため、測定前の休息時間、体位、最近の服薬・飲食・入浴の影響を記録。
体位・時間帯・活動での反応を見る
起立性低血圧、労作時のSpO2低下、入浴前後の血圧変動など、生活行為と生体反応のつながりを評価。
症状とセットで解釈
バイタル単独で判断せず、息切れ・胸痛・発熱の部位特異的症状、浮腫や体重変化、尿量、疼痛スコアの推移を合わせて総合評価。
デバイスの妥当性確認
家庭血圧計のカフサイズ・測定姿勢、パルスオキシメータの装着法・測定安定化、体温計の部位の一貫性、校正の必要性を訪問時に点検・指導。
早期警戒スコアの活用(参考)
NEWS2(英国RCP)の構成要素(呼吸数、SpO2、酸素投与、体温、収縮期血圧、脈拍、意識)を参考に、数値が重なって逸脱する場合に「悪化の兆候」として感度高く拾う。
日本の訪問看護でNEWS2が制度化されているわけではないが、早期対応の目安に有用。
感染疑いではqSOFA(呼吸数≥22、収縮期血圧≤100、意識変容)を簡便スクリーニングとして用い、該当すれば医師連絡や救急要請を検討。
疾患別の重点
心不全: 毎日の体重、浮腫、夜間呼吸困難、乾性咳、頸静脈怒張(可能なら)。
急な体重増加、SpO2低下、聴診で湿性ラ音は増悪サイン。
COPD/間質性肺疾患: 呼吸数、SpO2(目標域の遵守)、痰量・色、呼吸困難スケール(mMRC)変化。
糖尿病: 食前後血糖、低血糖兆候、足病変(潰瘍、感染、末梢神経障害の評価)。
脳血管障害後: 血圧の管理、嚥下・誤嚥兆候、意識や神経症状の微細な変化。
3) 評価から意思決定(報告・指示受け・緊急対応)まで
– 記録と共有
– 訪問看護記録書(I・II)にバイタルと所見、患者訴え、介入、教育、リスク評価を記載。
トレンドグラフ化で見える化。
家族・本人へのフィードバックと自己測定の指導。
– 連絡基準(例)
– 直ちに医師/救急: 意識レベル低下、新規神経症状、SpO2持続90%未満(指示域外)、呼吸数30以上、収縮期血圧<90mmHg、胸痛/強い呼吸困難、重度低血糖疑い、けいれん、発熱に伴う重篤感。
– 速やかに医師報告: 新規の不整脈疑い、体重急増(心不全)、持続的高血圧/低血圧、発熱と局所感染徴候、創部/褥瘡の急な悪化、尿量著減など。
– SBAR等での伝達
– Situation-Background-Assessment-Recommendationの枠組みで簡潔に報告し、具体的な指示(投薬調整、受診、臨時訪問、検査依頼)を得る。
4) 技術的注意と教育
– 正確性の担保
– 測定前安静、体位、カフサイズ、測定時間帯、機器の点検、複数回測定の平均化、不整脈時の自動血圧誤差への注意。
– 利用者・家族教育
– 家庭血圧・体重・SpO2・血糖の自己測定方法と記録法、危険サインの認識、測定時の安全(立ちくらみ対策など)。
– 倫理・安全
– 同意、プライバシー配慮、感染予防(手指衛生・機器清拭)、転倒リスク配慮。
5) 根拠・参考になる指針やエビデンス
– 日本看護協会 訪問看護業務基準(最新版)/訪問看護の実践ガイド
– 訪問看護の評価・記録・連携の基本枠組みと安全管理の標準。
バイタルを含むアセスメントの実施が業務基準として示されています。
– 厚生労働省 指定訪問看護の人員及び運営に関する基準・介護保険における訪問看護の手引き
– 診療の補助としての観察(バイタル測定含む)、医師の訪問看護指示書に基づく実施、記録・報告の義務などの法的枠組み。
– 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)
– 家庭血圧の測定方法(朝夕、2回測定の平均、135/85mmHg基準)と評価の根拠。
起立性低血圧の評価も参考。
– 日本循環器学会/日本心不全学会 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2021改訂)
– 在宅での自己管理指標(体重・浮腫・息切れ)と悪化サイン、早期介入の重要性。
– 日本集中治療医学会/日本救急医学会 成人敗血症診療ガイドライン(J-SSCG2020)および国際Sepsisガイドライン
– 敗血症の早期認識にqSOFAの活用(呼吸数、意識、収縮期血圧)を推奨。
発熱や感染徴候とバイタル変化の組み合わせ評価の根拠。
– Royal College of Physicians: National Early Warning Score 2(NEWS2, 2017/2023)
– 呼吸数・SpO2・酸素投与・体温・血圧・脈拍・意識の複合スコアで急変リスクを予測する枠組み。
コミュニティ設定でも感度が高いとされ、参考として有用。
– British Thoracic Society Oxygen guideline(2017)
– 酸素投与目標域(一般94–98%、慢性高CO2貯留リスク88–92%)の根拠。
SpO2評価と安全な酸素療法の基準。
– ADA Standards of Care 2024/日本糖尿病学会
– 低血糖の閾値分類(<70/<54mg/dL)と在宅での対応、血糖目標の個別化の根拠。
– Braden Scale(褥瘡リスク評価)
– 在宅でも妥当性が検証され、皮膚・栄養・活動性の総合評価に用いられる標準的ツール。
– 呼吸数の予後予測に関する研究
– 呼吸数異常は入院・重症化の早期指標として最も敏感な一つであることが複数研究で示されており、在宅での厳密な呼吸数測定の重要性を支持。
まとめ
– 訪問看護のバイタルサイン測定は、単なる数値取得にとどまらず、意識・呼吸の質・SpO2・脈拍・血圧・体温・疼痛に、体重や浮腫、皮膚・水分状態、血糖、神経所見などを組み合わせた「総合評価」を行います。
– 評価のキモは「ベースラインとトレンド」「生活行為との関連」「症状と数値の統合」「早期警戒スコアの参考活用」「疾患特異的な重点観察」です。
– NEWS2やqSOFA、各疾患ガイドライン(JSH、心不全、糖尿病、酸素療法)に照らして、逸脱や悪化サインがあれば迅速に医師連絡や救急対応へつなげます。
– 測定技術とデバイスの妥当性、患者・家族教育、記録と情報共有が精度と安全性を支えます。
ご希望があれば、対象となる疾患やご家族の状態に合わせた「具体的な観察ポイントと連絡基準(チェックリスト)」を個別に作成します。
生活面の評価(栄養・水分・排泄・睡眠・活動)はどのようにチェックされるのか?
以下は、訪問看護で実際に行われる「生活面の評価(栄養・水分・排泄・睡眠・活動)」のチェック内容を、現場での手順・観察ポイント・用いる簡便なスクリーニング指標・異常の目安・対応方針まで具体的にまとめたものです。
後半に根拠(関連ガイドライン・標準的ツール)も示します。
栄養(食事・嚥下・口腔を含む)
– 何を見ているか
– 体重・体重変化、BMI、食事摂取量とバランス、食欲、嚥下(飲み込み)・咀嚼の状態、口腔内(乾燥・義歯・疼痛)、低栄養やフレイルの兆候(筋力低下、易疲労、浮腫など)。
– どうチェックするか
– 身体計測:体重(できれば毎週〜毎月同条件)、身長(困難なら既往から)、BMI算出。
– 食事観察と聴取:1日の食事回数、主食・主菜・副菜のバランス、タンパク源(肉・魚・卵・大豆)、間食、調理の実際(冷蔵庫・台所の状況、買い物/調理の負担)、むせ・咳・咽頭つかえ感の有無、食後のだるさや逆流感。
– 簡易スクリーニング:MNA-SF(高齢者向け栄養スクリーニング)、基本チェックリスト(KCL)の栄養・口腔項目を用いることが多い。
– 嚥下・口腔:水飲みテスト、反復唾液嚥下テスト(RSST)、EAT-10(嚥下自己評価)、口腔観察(OHAT-J:義歯適合、口腔乾燥、粘膜炎症、歯垢/舌苔など)。
– 身体所見:筋萎縮、皮膚の乾燥/皮下脂肪、褥瘡の有無、浮腫(栄養性/心腎性の鑑別は医師と連携)。
– 服薬:食欲に影響する薬(抗うつ薬、抗コリン薬)、利尿薬、PPI長期使用なども確認。
– 目安(異常のサイン)
– 1〜6カ月の体重減少(例:1カ月で5%以上、6カ月で10%以上)や食事摂取量の低下(通常の75%未満)、BMI低値(おおむね20未満。
高齢者では22未満でもリスクとする場面あり)、MNA-SFスコア低下、嚥下時のむせ頻発、口腔乾燥・義歯不適合。
– 対応・連携
– 食事形態の調整(刻み・とろみ・軟菜)、摂取回数の工夫、エネルギー/タンパク強化(間食・栄養補助食品)、摂食嚥下訓練(ST連携)、口腔ケア(歯科衛生士/歯科連携)、栄養士による訪問栄養食事指導、原因薬剤の見直し(主治医・薬剤師)。
水分(脱水・過剰の両面)
– 何を見ているか
– 1日の水分摂取量、口渇、口腔内乾燥、尿量・尿色、起立時のふらつき、血圧・脈拍、皮膚ツルゴール、意識・集中力、浮腫や呼吸苦(心不全/腎不全の悪化サイン)。
– どうチェックするか
– 聴取と日誌:コップ何杯か、汁物・果物・ゼリー等を含めて概算。
必要に応じて摂取/排泄表を数日つける。
– 身体所見:口唇・舌の乾燥、腋窩乾燥、皮膚ツルゴール、爪床、粘膜、起立性低血圧(臥位→立位で収縮期20mmHg以上または拡張期10mmHg以上低下)、頻脈、せん妄傾向。
– 排泄観察:尿色(濃い琥珀色は脱水を示唆)、尿量(目安:0.5mL/kg/時未満は少ない)、夜間頻尿の有無。
– 利尿薬・SGLT2阻害薬などの服薬状況、心腎機能の既往。
– 目安
– 目標摂取量の一例:おおむね30mL/kg/日(心不全・腎不全などでは主治医指示に従い制限/調整)。
脱水サイン(口腔乾燥、起立性低血圧、頻脈、尿濃染、便秘、せん妄)。
逆に浮腫・体重急増・呼吸苦は水分過剰を示唆。
– 対応・連携
– 飲水の工夫(少量頻回、手の届く場所に常備、味・温度の工夫、ゼリー飲料・スープの活用)、利尿薬の服薬タイミング調整相談、体重・浮腫のモニタリング。
悪化サインがあれば主治医へ報告(必要時は検査介入)。
排泄(排便・排尿)
– 何を見ているか
– 排便頻度・性状、腹部症状、便失禁、下剤使用状況。
排尿の回数・量・夜間頻尿、尿失禁、排尿痛・残尿感、UTI反復、前立腺疾患や神経因性膀胱の既往。
– どうチェックするか
– 便:排便日誌、ブリストル便形状スケール(Type1〜7。
3〜4が望ましい)、腹部診察(膨満、圧痛、直腸指診は必要時医師)。
便秘/下痢の誘因薬(抗コリン薬、鉄剤、オピオイド、抗生剤など)。
– 尿:日誌(排尿間隔、1回量、夜間回数、失禁エピソード)、尿の色・臭い、排尿困難や腹圧排尿の有無。
必要時は携帯膀胱スキャナで残尿確認(事業所により運用差)。
質問票としてIPSS(男性の排尿症状)やOABSS(過活動膀胱)を使うこともある。
– 皮膚:失禁関連皮膚炎(IAD)の有無。
– 目安
– 便秘:週3回未満や排便時の過度な怒責、硬便(Type1-2)、残便感。
急な便秘化や血便は要注意。
– 尿:日中8回超/夜間2回以上の頻尿、切迫性尿失禁、残尿感、排尿痛、発熱。
残尿100mL超は注意(目安)。
– 対応・連携
– 便:水分・食物繊維・運動・腹部マッサージ、排便姿勢(膝高・前傾)、坐薬/浣腸の適正使用、慢性便秘は薬剤調整を主治医に依頼(酸化マグネシウム、ルビプロストン、グアニル酸シクラーゼ作動薬など)。
– 尿:骨盤底筋トレーニング、排尿間隔トレーニング、就寝前飲水調整、失禁ケア用品の選択、泌尿器科連携(前立腺、過活動膀胱、UTI対策)、抗コリン薬/β3作動薬の適正化。
皮膚保護剤でIAD予防。
睡眠
– 何を見ているか
– 就床・起床時刻、入眠潜時、中途覚醒、早朝覚醒、昼寝、いびき・無呼吸、脚のむずむず(RLS)、夜間頻尿、痛み・咳・呼吸困難、カフェイン・アルコール、睡眠薬の使用と副作用、日中の眠気や転倒。
– どうチェックするか
– 睡眠日誌(1〜2週間)、質問票:PSQI(ピッツバーグ睡眠質問票)、ISI(不眠重症度)、ESS(日中の眠気)。
アクチグラフやウェアラブルの活用も可能。
– 服薬レビュー:ベンゾジアゼピン系やZ薬の長期使用、抗ヒスタミン、ステロイド、利尿薬の投与時刻など。
– 環境:照明・騒音・室温、寝具、就寝前スクリーン、日中活動量と日光曝露。
– 目安
– 入眠潜時30分超、中途覚醒頻回、総睡眠時間の顕著な短縮または過長、PSQI>5、ESS>10。
睡眠薬によるふらつき・転倒、せん妄の誘発は要注意。
– 対応・連携
– 睡眠衛生(就寝・起床の固定、朝光、日中活動、就床前のカフェイン・アルコール/喫煙回避、画面光制限、昼寝は午後早めに20〜30分)、痛み・咳・頻尿などの原因治療、睡眠薬の適正化・漸減の相談、いびき/無呼吸が疑わしければ専門医へ。
必要に応じCPAP等のアドヒアランス支援。
活動(運動・ADL/IADL・転倒リスク)
– 何を見ているか
– 日中の活動量、歩行能力、立ち座り、バランス、握力、日常生活動作(ADL)と手段的ADL(IADL:買い物・調理・金銭管理など)、外出状況、最近の転倒、痛み、呼吸・循環器症状。
– どうチェックするか
– 客観テスト:Timed Up and Go(TUG;椅子→3m歩行→戻る所要時間。
13.5秒超で転倒リスク上昇の目安)、5回立ち上がりテスト、SPPB(立位バランス・歩行速度・椅子立ち上がり:合計0〜12点、9点以下で機能低下リスク)、通常歩行速度(1.0m/s未満で注意)、握力(AWGS基準:男性<28kg、女性<18kgで低筋力)。
– ADL/IADL尺度:Barthel Index、Katz ADL、Lawton IADLなどを状況に応じて使用。
– フレイル/サルコペニアスクリーニング:基本チェックリスト(KCL)、SARC-F。
– バイタル:起立時血圧低下、労作時SpO2低下、息切れの程度(mMRC)。
– 目安
– TUG延長、歩行速度低下、握力低下、SPPB低下、KCLの複数ドメイン該当、過去1年の転倒、恐怖による活動制限。
– 対応・連携
– 個別運動プログラム(下肢筋力・バランス・関節可動域、ゆるやかな有酸素)、生活目標(毎日◯分歩く、段差昇降など)、福祉用具(手すり・杖・歩行器・滑り止めマット)、住環境調整(段差解消、照明)、PT/OT連携、骨粗鬆症・整形/循環器・呼吸器の専門連携。
転倒ハイリスクなら多面的介入を早期実施。
実施の流れと頻度(訪問看護のプロセス)
– 初回(導入時):包括的アセスメント(現病歴、服薬、既往、家族・住環境、上記5領域)。
バイタル、体重、基本チェックリスト、ADL測定。
必要に応じて嚥下・口腔・排尿のスクリーニング。
– 計画・目標設定:例)「1カ月で体重−1kg以上の減少を止める」「1週間で便性状をType3〜4に」「TUGを2秒短縮」「夜間中途覚醒を1回減らす」など具体目標。
– 継続モニタリング:毎回のバイタル+重点領域の観察。
体重は少なくとも月1回(心不全等は頻回)。
食事・水分・排便は日誌や家族聴取で週次〜随時。
運動テストは1〜3カ月ごとに再測。
睡眠は日誌と質問票を適宜。
– 記録と共有:SOAP記録、画像(食事、環境)、LIFE等の標準様式に準拠した項目入力。
主治医・ケアマネ・多職種へ情報連携。
– レッドフラッグ(すぐ相談/受診)
– 急激な体重減少、誤嚥疑い(湿性嗄声、吸気性喘鳴、発熱)、脱水兆候+意識変容、便秘の急な悪化や血便、尿閉や血尿、息切れや下腿急速浮腫、転倒・頭部打撲、せん妄。
根拠(ガイドライン・標準ツール・公的基準)
– 訪問看護の実務基準
– 厚生労働省「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」:健康状態の観察、日常生活の看護、医療的処置、多職種連携が求められると規定。
生活機能評価はその中心的業務。
– 日本看護協会「訪問看護業務基準」「訪問看護の手引き」:包括的アセスメント(栄養・排泄・睡眠・活動・口腔等)と標準化ツールの活用、看護過程(アセスメント→計画→実施→評価)を明示。
– 科学的介護情報システム(LIFE):体重、食事摂取量、口腔、排便、ADL等の継続記録を推奨し、エビデンスに基づくケア(EBP)を促進。
– 栄養・嚥下・口腔
– GLIMコンセンサス(2018):低栄養診断の国際基準(体重減少、低BMI、筋量減少+etiology)を提示。
日本の在宅高齢者でも参照。
– MNA-SF:高齢者向け栄養スクリーニングの国際標準。
日本語版が広く運用。
– 日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)ガイドライン・提言:高齢者・在宅における栄養評価・介入の枠組みを提示。
– 嚥下評価:EAT-10(質問票)、RSST、水飲みテストは国内臨床で標準的スクリーニング。
口腔評価はOHAT(日本語版)を訪問看護・介護でも利用。
– 水分管理
– 一般的な水分必要量(約30mL/kg/日)は臨床栄養学の標準的目安。
高齢者では心腎機能に応じ調整。
脱水評価は起立性低血圧、粘膜乾燥、尿量/尿色などの臨床所見を重視。
– せん妄・脱水・感染の関係は高齢者医療の標準知見(日本老年医学会などの総説)。
– 排泄
– 慢性便秘症診療ガイドライン(日本消化器病学会/日本消化器病関連学会):慢性便秘の診断・治療、ブリストルスケール活用、薬物療法の推奨。
– 日本泌尿器科学会ガイドライン:過活動膀胱、尿失禁、前立腺肥大症など。
IPSS、OABSSなどの質問票の活用を推奨。
– 失禁関連皮膚炎(IAD)はスキンケアガイドラインで予防・保護剤使用が推奨。
– 睡眠
– 日本睡眠学会・関連ガイドライン:不眠症診療、睡眠衛生教育の重要性。
PSQI、ISI、ESSは国際的標準質問票として日本語版あり。
– 厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針」や「睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン」:高齢者の睡眠薬リスク(転倒・せん妄)と非薬物療法の推奨。
– 活動・フレイル・転倒
– 日本老年医学会「フレイル診療ガイドライン」:多面的評価(栄養・身体活動・認知・うつ等)と介入。
基本チェックリストの活用。
– AWGS(アジアサルコペニアワーキンググループ)2019/2022:歩行速度1.0m/s、握力(男<28kg、女<18kg)などカットオフ。
– 転倒・骨折予防ガイドライン(日本老年医学会/整形外科学会等):TUGや多因子介入の有効性。
– SPPB、Barthel Index、Lawton IADLは国際的に妥当性確認済みの評価ツール。
– 口腔・褥瘡との関連
– 日本褥瘡学会ガイドライン:栄養・水分・活動性が褥瘡予防の三本柱であることを明記。
口腔機能・嚥下障害は誤嚥性肺炎と栄養低下のリスク。
具体的な質問例(初回/再評価で用いられやすいもの)
– 栄養:この1〜3カ月で体重や服のゆるさに変化は?
1食の量は半分以上食べられますか?
むせや飲み込みづらさは?
義歯は痛くない?
– 水分:昨日は何杯くらい飲みましたか?
口が渇く・めまいは?
尿の回数と色は?
– 排便/排尿:最後の排便はいつ、固さは?
お腹の張りは?
排尿に時間がかかる、残る感じは?
夜間は何回起きますか?
– 睡眠:寝つくまで何分くらい?
夜中に何回起きますか?
日中の眠気は?
いびきは指摘されていますか?
– 活動:家の中と外でどのくらい歩いていますか?
立ち上がりに手を使いますか?
最近転びそうになった/転んだことは?
実務上のポイント
– 在宅では「観察・聴取・簡便テスト」が主軸。
必要時は主治医と連携して検査(採血、画像、心エコー、嚥下造影/内視鏡)や専門職訪問(ST、管理栄養士、PT/OT、歯科衛生士)へ展開。
– 評価は「その人らしさ」を基準に、既往のベースラインと比較して変化をとらえることが肝要。
– 服薬は生活5領域に強く影響するため、処方の適正化(ポリファーマシー対策)を常に意識。
– 家族介護力・住環境・費用面(栄養補助、福祉用具)もアセスメントに含める。
まとめ
訪問看護における生活面の評価は、単発の測定ではなく、症状・生活行動・環境・服薬・多職種連携を統合した継続的プロセスです。
栄養は体重・食事量・嚥下と口腔、水分は摂取量と脱水/過剰の徴候、排泄は日誌とスケール、睡眠は日誌と質問票、活動は客観テストとADL/IADLで多面的に把握します。
各ポイントは国内外のガイドラインや標準ツールに裏づけがあり、在宅ならではの観察(家の中の生活実態)を重ねることで、早期発見・早期介入につなげます。
もし具体的なご状況(年齢、基礎疾患、最近困っている症状)があれば、上記枠組みに沿って個別の評価項目と優先順位をご提案できます。
服薬管理や副作用・飲み合わせのリスクはどのように見極められるのか?
以下は、訪問看護で行う服薬管理と、副作用・飲み合わせ(相互作用)リスクの見極め方を、現場の手順と根拠の両面から詳しくまとめたものです。
ご自宅という環境の特性(家族の関わり、保管状況、生活リズム、複数医療機関の処方など)がリスクに直結しやすいため、訪問看護は「生活に密着した薬の安全性評価」を強みにしています。
初回訪問時の服薬アセスメント(Medication Reconciliation)
– お薬手帳、残薬、OTC薬、健康食品・サプリ、貼付薬・吸入薬・点眼薬・頓用薬を含め、実際に家にある薬をすべて出してもらい、一覧化します。
処方歴だけでなく「実際に飲んでいるか」を確認するのが重要です。
– 同効薬の重複、同成分の重複、処方の継ぎ足しによる漫然投与、休薬すべき薬(術前・検査前など)の有無、用量・用法の誤り、週1回製剤(例 メトトレキサート)の毎日誤投与リスクなどをチェックします。
– 服薬アドヒアランス(のみ忘れ・自己中止・自己調整)の把握。
服薬カレンダー、1包化、ピルケース、服薬アラームの使用状況。
モリスキー尺度(MMAS-8)など簡便ツールを使う施設もあります。
– 嚥下機能や認知機能、手指巧緻性、視力・聴力、言語理解、家族サポート、服薬タイミングを左右する生活習慣(食事・通院・デイサービス)を評価します。
経管投与の有無や粉砕可否(徐放・腸溶・舌下など粉砕禁止製剤)も確認します。
– 腎機能・肝機能・電解質など直近の検査値と処方の整合性。
高齢・低体重・脱水・低栄養・フレイルは副作用リスク増加因子です。
日々の観察・モニタリングの実際(副作用の早期発見)
– バイタルサイン(血圧・脈拍・呼吸数・SpO2・体温)、体重、尿量、浮腫、意識レベル、ふらつき、転倒の有無、食欲・悪心、便通、皮疹・かゆみ、睡眠、疼痛、せん妄・抑うつ・不穏などを定点観測します。
新規開始・増量直後・抗菌薬開始・脱水時は特に密に観察します。
– 薬剤クラス別の重点ポイント
– 抗凝固薬/抗血小板薬(ワルファリン、DOAC、アスピリン、クロピドグレルなど) 出血兆候(鼻出血、歯肉出血、皮下出血、黒色便、血尿、倦怠感)。
ワルファリンは食事のビタミンK摂取変動、併用薬・抗菌薬の影響に注意。
必要時はINRの採血スケジュールを主治医と調整。
– 降圧薬・利尿薬 起立性低血圧、ふらつき、脱水、電解質異常(低Na/低K/高K)。
ACE阻害薬/ARB/スピロノラクトンでは高Kに注意。
体重や浮腫で心不全の変動を把握。
– 糖尿病治療薬 低血糖症状(発汗、ふるえ、動悸、意識低下)と高血糖のサイン。
腎機能低下時のメトホルミン(乳酸アシドーシス)やSU薬の低血糖リスク。
インスリン手技・注射部位ローテーション・使用期限・保管温度も確認。
– 向精神薬・睡眠薬・抗コリン薬 過鎮静、転倒、せん妄、便秘、尿閉、口渇、認知機能低下。
高齢者は特にBeers基準で要注意。
– オピオイド 過鎮静、呼吸抑制、便秘、悪心、せん妄。
開始・増量時は家族教育をし、下剤併用やレスキュー投与計画を確認。
– 抗菌薬 発疹、下痢(C. difficile関連下痢の兆候)、腎機能変動、QT延長の可能性。
– 抗不整脈薬・ジゴキシン・リチウムなど治療域の狭い薬 中毒徴候を観察し、必要に応じTDM(血中濃度測定)を主治医と連携。
– 因果関係の整理 症状の発現時期、投与開始/増量/併用開始のタイミング、中止での改善、再投与での再燃などを記録し、ナランホ基準(Naranjo scale)などの考え方で可能性を推定します。
飲み合わせ(相互作用)の見極め手順
– 体系的なチェック
– 添付文書・インタビューフォーム(PMDA)での相互作用欄の確認。
– 併用薬の一括チェック(薬局や看護ステーションでの相互作用データベース Micromedex、Lexicomp、今日の治療薬、治療薬マニュアル等)。
– お薬手帳の処方元や交付日から、複数医療機関の重複を把握。
– よくある高リスク相互作用の例
– 出血リスク増大 抗凝固薬+抗血小板薬+NSAIDs、SSRI/SNRIとの併用でも出血傾向が増すことあり。
– 高K血症 ACE阻害薬/ARB+カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン等)+カリウム製剤、加えてNSAIDsで腎前性の悪化。
– トリプルワーミー ACE阻害薬/ARB+利尿薬+NSAIDsで急性腎障害。
– セロトニン症候群 SSRI/SNRI/三環系+トラマドール、リネゾリド、トリプタン等。
– QT延長 マクロライド系/フルオロキノロン系抗菌薬+抗精神病薬/一部抗不整脈薬など。
– 横紋筋融解 スタチン(特にCYP3A4代謝型)+マクロライド/アゾール系/グレープフルーツ。
– ワルファリン感受性増強 多くの抗菌薬、アミオダロン、甲状腺薬、ハーブ(セントジョーンズワートは逆に低下させうる)。
– 中枢抑制の相加 ベンゾジアゼピン+オピオイド、抗ヒスタミン等。
– 代謝・輸送の基礎知識で補強 CYP3A4/2D6/2C9/2C19、P-gpの阻害/誘導で血中濃度が変動。
腎排泄薬は腎機能依存で蓄積。
服薬エラーと環境リスクの低減
– 与薬の5R(正しい人・薬・用量・時間・経路)+記録・説明・評価。
ハイアラート薬(インスリン、抗凝固薬、カリウム製剤、化学療法薬、濃グリセオール等)はダブルチェック。
– 誤投与防止策 1包化、色分けカレンダー、写真付き内服表、頓用・定期の分離保管、週1回製剤の特別な表示、貼付薬の貼付・剥離時間の記録。
– 保管管理 湿気・温度、誤飲防止の施錠、麻薬台帳管理とカウント、使用期限切れ・残薬の整理。
経管投与・嚥下障害への対応
– 粉砕不可・腸溶/徐放製剤の確認。
代替製剤の可否を薬剤師・医師と協議。
– 投与順序・フラッシュの徹底でチューブ閉塞を防止。
プロトンポンプ阻害薬の顆粒製剤、結晶性薬の沈殿など注意。
– 嚥下訓練や剤形変更(口腔内崩壊錠、シロップ、ゼリー)で誤嚥リスクを下げる。
多職種連携と減薬(ポリファーマシー)対策
– 処方医、かかりつけ薬剤師、ケアマネ、訪問栄養、リハと情報共有。
トレーシングレポートで副作用や相互作用懸念、残薬量、実服状況を報告。
– 減薬の提案 不要薬・重複薬・リスクがベネフィットを上回る薬をSTOPP/START基準やBeers基準、高齢者薬物療法ガイドラインに照らして検討。
中止は段階的に、離脱症状や再燃を観察しながら実施。
– モニタリング計画 採血(腎機能・肝機能・電解質・INRなど)の頻度を個別化し、訪問スケジュールと連携。
利用者・家族への教育(自己管理支援)
– すぐに連絡すべきレッドフラッグを共有
– 激しい発疹・呼吸困難・唇や喉の腫れ(アナフィラキシー)
– 失神・ひどいふらつき・新規の転倒
– 黒色便、血尿、止まらない出血、吐血、原因不明の強い倦怠感
– 意識混濁、急激なせん妄、けいれん
– 尿が極端に出ない、体重の急増(心不全悪化)
– 食べ物・嗜好品・サプリの注意 グレープフルーツ、アルコール、セントジョーンズワート、ビタミンK豊富食材など。
– 頓用薬の使い方、飲み忘れ時の対応、旅行時や通院日の調整、貼付薬の貼り替え位置ローテーション、注射針・廃棄方法などを具体的に。
根拠(ガイドライン・エビデンス・制度)
– 厚生労働省
– 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編・各論編) ポリファーマシーの評価・減薬手順、ハイリスク薬のモニタリング、生活背景に即した服薬管理を推奨。
– 訪問看護の手引き/訪問看護ステーションの業務指針 医師の指示書に基づく観察・助言・連絡調整、与薬の安全確保、多職種連携を規定。
– 日本老年医学会
– 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(2015改訂等) 加齢による薬物動態・薬力学変化、減薬の原則、ハイリスク薬(ベンゾジアゼピン、抗コリン薬、抗糖尿病薬、抗精神病薬、抗凝固薬など)の注意点。
– 国際的基準
– AGS Beers Criteria(最新版) 高齢者に不適切な薬や慎重投与薬の一覧、相互作用や腎機能に基づく回避推奨を提示。
– STOPP/START基準 中止すべき薬と開始を検討すべき薬のチェックリスト。
減薬や処方最適化の実務に有用。
– 安全管理
– PMDA(医薬品医療機器総合機構)の添付文書・RMP 禁忌・併用注意、重篤副作用、TDM要否などの一次情報源。
– ハイアラート薬の安全対策(日本医療安全調査機構、日本看護協会の安全指針等) 与薬手順、ダブルチェック、記録の徹底。
– エビデンス
– 在宅・高齢者での薬剤レビュー(薬剤師・看護師・医師のチーム介入)が有害事象を減らし、入院・転倒・費用を抑制しうることを示す国内外の研究が蓄積しています。
特にポリファーマシー対策プログラムは有用性が高いと報告されています。
実務での流れ(簡潔なまとめ)
– 初回 全薬剤の棚卸し→重複・相互作用・用量適正・粉砕可否を確認→アドヒアランス・嚥下・環境評価→リスク要因抽出。
– 介入 1包化・カレンダー導入、与薬手順標準化、家族教育、薬局・医師へ情報共有(残薬・副作用疑い・提案)。
– 継続 重要薬の症状・バイタル・体重・採血を計画的にフォロー。
新規薬・用量変更時はフォローを密に。
– 見直し 定期的な多職種カンファレンスで減薬・処方最適化を検討。
記録とフィードバックを重ねて安全性を高める。
具体例(よくあるケース)
– ふらつき・転倒が増えた高齢者 降圧薬多剤+睡眠薬。
起立性低血圧、過鎮静、抗コリン負荷を評価。
夕方降圧薬の時間調整、睡眠薬漸減、日中活動量の調整を主治医と協議。
– 食欲低下と黒色便 抗凝固薬+NSAIDsの併用。
出血リスクとして至急連絡、PPI導入やNSAIDs中止を提案し、Hb測定・内視鏡の要否を検討。
– 高K血症傾向 ACE阻害薬+スピロノラクトン+カリウム製剤。
検査頻度を上げ、食事指導、薬の見直しを依頼。
– 糖尿病で低血糖反復 SU薬継続中で食事摂取不安定。
減量またはDPP-4などへの切替提案、低血糖時対応キットの整備、家族教育。
訪問看護の強みは、薬そのものの知識に加えて「生活と薬の接点」を具体的に見に行けることです。
現場での観察と、添付文書・各種ガイドライン・相互作用データベースという根拠に基づく評価を組み合わせ、医師・薬剤師と連携して処方の最適化と安全な運用を図ります。
結果として、副作用の早期発見、相互作用の予防、転倒や入院の回避、アドヒアランスの向上、QOLの維持に寄与できます。
必要であれば、現在の処方内容を前提に個別のリスクチェック項目と観察計画(モニタリング計画)を一緒に作成することも可能です。
お薬手帳や最新の検査結果をご用意いただければ、より具体的に助言できます。
皮膚・創傷、呼吸・循環、痛み・認知機能などの専門的アセスメントは何をどこまで見るのか?
以下は、訪問看護で実施される健康チェックのうち、皮膚・創傷、呼吸・循環、痛み・認知機能に関する専門的アセスメントを「何を」「どこまで」見るのかを、現場で使える観察ポイント、標準的な評価ツール、レッドフラッグ(緊急性の高い所見)、報告・連携基準とともに整理したものです。
根拠については文末に主要ガイドライン等を掲げます。
総論(訪問看護におけるアセスメントの基本)
– 目的 患者の状態変化を早期に捉え、重症化予防、再入院回避、QOL維持・向上を図る。
医師・多職種に必要十分な情報をタイムリーに提供する。
– 基本フレーム バイタルサイン、主訴・観察、疾患特異的所見、治療(デバイス・薬剤)遵守状況と副作用、ADL/IADL、栄養・水分・排泄、生活環境・安全、家族支援・意思決定支援。
– 記録と継時評価 同じ尺度・同じ方法で繰り返し測る(例 創の長径×短径×深さ、SpO2/呼吸数、体重、NRS痛みスコアなど)。
SBARで報告。
皮膚・創傷のアセスメント
何を見るか(系統的な観察)
– 全身の皮膚状態 乾燥/湿潤、色調(蒼白、発赤、チアノーゼ、黄疸)、温度、弾力(ターゴール)、瘙痒、皮疹。
浮腫の有無と程度(Pitting 1+〜4+)、左右差。
– 圧迫リスク部位 仙骨、踵、坐骨、腸骨稜、肩甲部、耳介、後頭部など。
体位や支持面(マットレス、車いすクッション)との適合。
– 褥瘡・創部
– 創の部位・大きさ(長径・短径・深さ)、ポケット/トンネル有無、縁(上皮化/肥厚/浸軟)、周囲皮膚(発赤、硬結、湿疹、IADなど)。
– 創面の性状(壊死組織量、肉芽、フィブリン、上皮化)、出血傾向。
– 滲出液(量・性状・色・臭い)、ドレッシング材の適合と漏れ。
– 疼痛(処置時/安静時、NRSやフェイススケール併用)。
– デバイス関連皮膚障害 ストーマ周囲、PEG/PTEG、気管カニューレ、尿道カテーテル、CVポート/カテーテル固定部、酸素カニュラ耳介部などの圧迫・摩擦・湿潤障害。
– 糖尿病足・末梢循環 足部の皮膚乾燥、胼胝、亀裂、足爪、潰瘍、趾間の白癬、末梢冷感、色調、足背・後脛骨動脈の触知。
感覚(可能ならモノフィラメント)。
どこまで実施するか(在宅での標準と限界)
– リスク評価 Bradenスケール等の褥瘡リスク評価は在宅でも実施可能。
– 創評価ツール 日本で普及するDESIGN-R(褥瘡)、PUSH、TIME概念に基づく創床評価を繰り返し実施。
– 介入判断 ドレッシング交換、圧抜き・体位変換計画、スキンケア、保湿・バリア保護、支持面(エアマット等)調整提案は看護の範疇。
壊死組織のデブリードマンは医師指示・適応判断が必要。
培養採取や抗菌薬開始も医師指示が必要。
– 連携・報告の目安(レッドフラッグ)
– 急な発赤拡大、熱感、強い疼痛、悪臭・膿性滲出、発熱を伴う場合(深部/全身感染疑い)。
– 壊死の急速進行、ポケット拡大、皮下気腫感(壊死性軟部組織感染疑い)。
– 末梢チアノーゼ・安静時疼痛・足潰瘍の悪化(重度虚血疑い)。
– ストーマ壊死、粘膜脱出、出血持続、皮下漏れ。
根拠
– 日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン」第6版、DESIGN-R指標、TIME(創床準備)概念、IAD(失禁関連皮膚炎)国際コンセンサスなどに基づく。
呼吸・循環のアセスメント
呼吸(何を見るか)
– バイタル 呼吸数、SpO2、体温、脈拍。
呼吸パターン(奇異性、チェーンストークス)、努力呼吸(副呼吸筋、鼻翼呼吸)、起座呼吸、会話困難度。
– 観察・聴診 胸郭の左右差、喘鳴/笛声音、湿性ラ音、呼気延長。
咳嗽の頻度・有効性、喀痰量・性状・色(粘稠、膿性、血性)、におい。
– 既存療法の適正性 吸入薬手技(MDI・DPI・ネブライザー)、在宅酸素(流量、加湿、カニュラ周囲皮膚、火気安全)、呼吸リハ(排痰、口すぼめ呼吸)。
– リスク評価 COPDや心不全の増悪兆候、睡眠時無呼吸疑い(いびき、日中傾眠)、誤嚥徴候(食後の湿性嗄声、むせ、痰増加)。
– ツール MRC息切れスケール、CAT(COPD評価)、PEF(喘息で指示がある場合)。
循環(何を見るか)
– バイタル 血圧、脈拍(頻度・整/不整)、体温。
– 体液量評価 浮腫(両側/片側、程度)、体重増減(日々の変化)、頸静脈怒張、尿量、口渇、皮膚冷感/斑状。
– 心不全症状 労作時/安静時呼吸苦、夜間発作性呼吸困難、起座呼吸、咳・泡沫痰、倦怠感、食欲低下。
NYHA分類の聴取。
– 循環器デバイス ペースメーカー創部、ドレーン、圧迫療法(弾性ストッキング/包帯)の適合。
– 血栓症リスク 片側下肢の腫脹・発赤・疼痛・熱感(DVT疑い)。
安静臥床、癌、手術歴、ホルモン療法などの背景。
どこまで実施するか
– 在宅での標準 バイタル・SpO2測定、聴診、喀痰観察、吸入手技是正、呼吸介助手技の指導、酸素機器の安全点検、体重・浮腫管理、服薬アドヒアランス確認。
– 医師指示が必要/慎重対応 酸素流量の変更、去痰薬・利尿薬の開始/増量、抗菌薬の導入は指示下。
頻回の無効な吸引や血痰増加は報告。
– 連携・報告の目安(レッドフラッグ)
– SpO2が平常より持続的に3–4%以上低下、もしくは90%前後を下回る(医師指示の目標範囲に従い判断)。
チアノーゼ、会話不能な呼吸苦、意識障害、喘鳴増悪、血痰増量は緊急。
– 体重が短期間で増加(例 2–3日で2kg以上)+呼吸苦/浮腫増悪(心不全増悪疑い)。
– 胸痛(圧迫感/放散痛)、新規の顕著な不整脈感、収縮期血圧≥180または拡張期≥120で症状を伴う場合(高血圧緊急症)。
根拠
– 日本呼吸器学会 在宅酸素療法ガイドライン、COPD/CAT活用、BTS/国際的酸素療法ガイドライン(COPDでは過度な酸素でCO2貯留リスク)。
心不全はJCS/JHFSガイドライン(体重・症状による自己管理と早期介入)。
痛みのアセスメント
何を見るか
– 強度 NRS(0–10)、VAS、Wong-Bakerフェイススケール(高齢者/認知症では観察的尺度併用)。
– 特性と経過 PQRST(誘因/緩和、性状、部位・放散、強度、時間経過)、日内変動、睡眠・ADLへの影響、ブレイクスルー痛の頻度。
– 痛みのタイプ 侵害受容性(ズキズキ/鈍痛)か神経障害性(焼ける、電撃、しびれ、アロダニア)。
DN4やpainDETECTでスクリーニング可。
– 関連要因 体位、創傷、骨転移、痙縮、便秘、尿閉、末梢循環、抑うつ・不安。
鎮痛薬の効果・副作用(眠気、便秘、吐き気、せん妄)。
– 認知症の痛み 表情、発声、身体動作、慰撫への反応、食欲の変化をPAINADやAbbey Pain Scaleで評価。
どこまで実施するか
– 在宅での標準 定量的スコアでの継時評価、増悪因子/緩和策の同定、非薬物的介入(体位/温罨法/リラクゼーション)、処方どおりの内服・レスキュー使用の確認、副作用予防(便秘対策等)の支援。
– 医師連携 神経障害性痛が疑われる、夜間・安静時痛、強度がNRS4–6以上で日常生活に支障、レスキュー使用が増える、せん妄や強い傾眠など副作用出現は相談・調整。
根拠
– WHO三段階ラダー(評価の反復・レスキュー使用の位置づけ)、日本緩和医療学会がん疼痛ガイドライン、PAINAD/Abbeyなど観察尺度の妥当性研究。
認知機能のアセスメント
何を見るか
– ベースラインの把握 家族・介護者からの情報(発症時期、進行、日内変動)。
– スクリーニング
– HDS-R(改訂長谷川式)やMMSE-J、MoCA-J(軽度障害に鋭敏)。
– 遂行機能・注意 時計描画、Trail Making(簡易)、質問応答の遅延。
– せん妄の評価 CAMまたは4AT(急性発症・変動、注意障害、思考のまとまり、意識水準)。
誘因(感染、脱水、低酸素、便秘・尿閉、薬剤、疼痛、環境変化)。
– 気分・行動症状 GDS-15(高齢者抑うつ)、BPSD(易刺激性、幻視、徘徊、昼夜逆転)。
安全(転倒、火の不始末、服薬管理、金銭管理)。
– 判断能力・意思決定支援 治療理解、リスク認識、代理意思決定者の確認、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の状況。
どこまで実施するか
– 在宅での標準 簡易スクリーニング、日内変動の観察、服薬・食事・衛生・金銭などIADLの実態把握、環境調整(失見当対策、転倒予防)、家族への教育とレスパイト提案。
– 医師・多職種連携
– 急性発症/増悪(せん妄疑い)はまず身体原因(感染、低酸素、便尿閉)を評価し、異常あれば至急報告。
– 認知低下が継続/進行、BPSDが強く介護破綻のリスク、虐待・自傷他害の懸念がある場合は包括支援センター等と連携。
根拠
– 認知症学会・老年医学会のガイドライン、CAM/4ATの妥当性エビデンス、ACPの推奨。
横断的事項(どの領域にも関わる)
– 栄養・水分 体重、食事量、嚥下、アルブミンは医療連携で。
創傷治癒・呼吸筋・認知に直結。
– 服薬 アドヒアランス、ポリファーマシー、抗コリン薬・ベンゾ等の中枢副作用、抗血栓薬による出血傾向。
– 感染予防 手指衛生、創処置の清潔操作、デバイスケア、ワクチン接種状況。
– 安全 転倒リスク、火気・酸素・喫煙、ガス/暖房機器、徘徊対策。
– 記録と共有 写真記録(同意・個人情報配慮)、標準化スケールの数値、変化点、介入と反応を時系列で。
SBARで迅速共有。
レポート・エスカレーションの実際
– 緊急搬送を考慮 重篤な呼吸困難、SpO2著減、意識障害、胸痛/麻痺など急性神経症状、出血多量、敗血症兆候(発熱/頻脈/頻呼吸/意識変容)。
– 当日〜速やかに医師報告 創感染悪化、心不全増悪の兆候、持続する発熱・膿性痰、強い痛みの増悪、急な認知変動。
– 定期報告 スケールスコアの推移、介入効果、家族負担、在宅継続のリスク。
主な根拠・参考資料
– 厚生労働省 訪問看護関連資料(訪問看護の手引き、在宅医療・介護連携推進に関する指針)
– 日本褥瘡学会 褥瘡予防・管理ガイドライン第6版、DESIGN-R指標、IADコンセンサス
– 日本創傷・オストミー・失禁管理学会(皮膚・創傷ケアに関する実践ガイド)
– TIME(Tissue, Infection/Inflammation, Moisture, Edge)概念(国際創傷治癒学会)
– 日本呼吸器学会 在宅酸素療法ガイドライン、COPD診断と治療のためのガイドライン、吸入療法の手引き
– British Thoracic Society Guideline for Oxygen Use(COPD等での酸素目標の考え方)
– 日本循環器学会/日本心不全学会 心不全治療ガイドライン(体重・症状による自己管理と早期介入)
– 日本緩和医療学会 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン
– PAINAD日本語版、Abbey Pain Scale日本語版、DN4(神経障害性疼痛スクリーニング)
– 認知症疾患診療ガイドライン、HDS-R、MMSE-J、MoCA-J、CAM/4AT
まとめ
– 訪問看護のアセスメントは、標準化スケールと臨床観察を組み合わせ、同じ尺度で反復評価することが要。
看護独自の介入(スキンケア、体位、呼吸介助、教育)と、医師指示が必要な領域(デブリードマン、酸素調整、薬剤調整)を明確に区別し、レッドフラッグを逃さず早期に連携します。
根拠あるフレーム(褥瘡ガイドライン、JRS/JCS、緩和ケア、認知症評価ツール)に基づくことで、在宅の質と安全性を高められます。
【要約】
訪問看護は、法令・各種ガイドラインに基づき、バイタルや意識・痛み、呼吸・循環、神経、運動機能と転倒、栄養・口腔・嚥下、排泄・皮膚・褥瘡、代謝(糖尿病等)を系統的に観察。体重・浮腫、SpO2や家庭血圧、疼痛・呼吸困難度など標準評価を活用。在宅酸素・人工呼吸器、カテーテルやストーマ等の機器・処置の安全管理も確認。